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ありがとう


※アンオフィ、裏設定、過去設定絡み、それらの言葉にいやな予感がした人は見ない方が無難です
※激しく自己満足なSS


もう何年になるだろうか。
あの日から此処に来ることができなかった。
認めたくなくて、直視したら苦しくて、自責の念に押しつぶされてしまいそうだったから。

こうして自分から此処に来ることがあるなんて思っていなかった。
そんなことを考えながら朝日に優しく照らされた墓石を見つめる。
何を話していいかわからず、花束を持ったまましばらく立ち尽くしていた。
それから「………久しぶり。」なんて小さく呟いた後、花を供える。

「………ごめん。遅くなって。」

あの日の光景が脳裏に浮かぶ。
泣いてる暇なんてなかった。
いや、涙を流す資格なんてないと思い込んでいた。
そうやって自分を納得させることに必死で、ただ……必死で。

悲しいなんて思っていない。
仕方がなかったんだ。
俺が悪いんじゃない。
俺はちゃんと言われた通りにしたのだから。
これはきっと正しいことだったのだ。
そう言い聞かせていた。今までずっと。
それでも此処に来ることができなかったのは、どこかで認めることができなかったからだ。


直視したら、自分の中で守ってきた全てが崩れてしまうような気がしていた。


「やっと、俺の中で決着がついたからさ。」

もう大丈夫、俺はもう進める。
やっと自分の犯した過ちを、罪を認めることができたから。
後悔するんじゃなくて、否定するんじゃなくて、言い訳するんじゃなくて。
これからはちゃんと全部背負っていこう、全部背負って前を向いて生きていこう。

そう、決めたから。

「俺にも大切なものができたんだ。」

大切なものを作る意味も、あの日くれた言葉の意味も、今ならちゃんと分かる。

「………その、………ありがとうな。」

やっと吐きだした言葉に自然と口が綻んだ。
朝の少し冷たい風が頬を撫でた。
違和感を感じて頬に手をあてると冷たく濡れた感触がした。

「あぁ……なんだ。俺……。」

ちゃんと泣けるじゃないか。
一度流れてしまえば、それは堰を切ったように流れ出した。

「全く情けないな。」

ごしごしと顔をこする。
子供みたいに泣いてる自分に情けなさを感じながらも心は気持ちよく澄んでいた。
これで俺はもう前を向いて歩けるだろうか。

 

うっすらと見えた幻がいつの日かと同じようにほほ笑んだような気がした。

 

「ありがとう。母さん。」

 

やっと心から笑えた。

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